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戦略的研究プロジェクト

生命科学プロジェクト


研究の目的および期待される効果

  
 生物は、その長い進化の過程において常に新たな環境条件に適応してきた。時には生物の活動の結果として新たな環境が作り出され、さらにそれが生物の活動範囲を広げることにもなった。植物の光合成によって作り出された空気中の酸素が動物の出現を促し、さらに酸素の一部は大気上層に達して強烈な太陽紫外線に曝されてオゾン層を形成した。その結果、太陽光中の有害な紫外線の地表への到達が減少し、生物の進化が始まった。生物は進化の過程で徐々に光障害を防御する機能を獲得し、地球上に確たる地位を築き現在に至っている。このように環境と生物の間には密接な相互作用が見られるが、環境の変化があまりにも急激な場合には、生物の生存が脅かされることになる。
 産業革命以来、人類は科学技術の進歩による高度に発達した文明の恩恵を享受する一方で、絶えず地球環境を悪化させ続けてきた。ようやく20世紀の終わり頃になって、過去における環境破壊の反省から、フロンガス使用の撤廃や二酸化炭素をはじめとする温暖化ガス排出量削減のための国際協力などが進められている。このように地球環境は文字通りグローバルな問題であるが、一方では環境中の有害因子が人体にいかなる影響を及ぼすかを正しく評価することは極めて重要である。特に環境因子が遺伝子に与える変化は、細胞、ひいては個体の老化やがん化を促進し、個々人のQOL (quality of life)に悪影響を及ぼすとともに、遺伝病という形で子孫にもその累が及ぶ。
 学習院大学では現代の生命科学の重要性に鑑み、2008年に生命科学専攻、2009年度に生命科学科を開設した。こうして数学、物理学、化学という理学の基礎に分子・細胞の科学を基盤とした生命科学分野を加え、21世紀に相応しいグローバルな理学部に生まれ変わろうとしている。
 本プロジェクトでは、微生物から高等動植物に至る様々な生物について、分子レベルから個体レベルに至るあらゆる階層をその対象とすることにより、生物の特性である多様性と普遍性を「環境応答」という視点で理解し、生物が環境に応答するための普遍的な戦略を明らかにした上で、その欠損が生物に及ぼす影響、特に「老化」、「がん化」という高次生命現象を制御するための方策を得ることを目的とするものである。
 そして本プロジェクトによって、これらの研究によって、がん化や老化といった社会的な要請の高い生命現象の理解が格段に進むと期待される。特に今後人類にとってますます大きな脅威となる紫外線を始めとする損傷ストレスの克服に役立つばかりでなく、免疫学の分野にも波及し、アレルギー疾患を始め、免疫系が関与する様々な病気の診断・治療にも貢献するはずである。
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研究体制ならびに構成員

 本プロジェクトに二つの研究課題を置いて推進する。@外界からのシグナル伝達と細胞応答の分子細胞生物学的解析:具体的な計画としては増殖シグナルを受容した細胞が運動・分裂を担う細胞骨格系へとシグナルを伝達する仕組みや、生物が光、匂い、味などの外部刺激に応答する際の生体分子間相互作用の一分子レベルでの解析などを行う。A環境因子が生物の発生・老化・がん化に与える影響の分子細胞生物学的解析:具体的には、発生システムに影響を及ぼす有害な環境因子の探索や、DNAの複製・損傷ストレスが個体の老化・がん化を促進する機構の解析などを行う。これら二つの課題は独立して進めるのではなく、互いに連繋しあって推進する。プロジェクトメンバーは、自然科学研究科生命科学専攻の専任教員でもある下記の生命分子科学研究所所員から構成されている。
構成員 研究課題
花岡文雄
(プロジェクトリーダー)
DNA複製ストレス・損傷ストレスに対する細胞応答と個体の老化・がん化
芳賀達也 環境応答の分子基盤
馬渕一誠 細胞の分裂・運動とその制御
岡本治正 環境中の有害因子探索系の開発および有害因子作用機構の細胞・分子レベルでの解析
小島修一 タンパク質間相互作用を調節する新規ペプチドの探索と解析
安達 卓 小腸幹細胞をモデルとした成体臓器維持機構の解明
清末知宏 高等植物の光環境応答と花成
岡田哲二 光環境応答の分子構造基盤
中村浩之 低酸素環境応答とがん分子標的治療
西坂崇之 生体分子のダイナミクスの高精度検出

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研究設備(整備中)

研究機器
3次元セクショニング顕微鏡システム(2008年度)
(微弱蛍光を発する細胞の3次元的な観察とデコンボリューション)
RealTime PCR(2008年度)
(mRNAの定量解析、一塩基多型解析)
光学顕微鏡画像解析システム(2008年度)
(細胞の可視光画像の処理、シャッターの自動制御)
HPLCシステム(2008年度)
(生体分子の分離・精製)

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研究業績

プロジェクト構成員が発表した学術論文 → 各年の一覧はこちら
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