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鐘江 宏之 教授 |
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■略歴1964 年 福岡県に生まれる 2010 年 学習院大学文学部教授 |
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■研究テーマ・分野専門の分野としては、日本古代史(飛鳥・奈良・平安時代)を研究しています。人々の生きた営みや地方社会のあり方に関心があり、さまざまな政治事件の展開の背景にある人々の生活やものの考え方の実際を研究することを通して、その事件や文化的な営みの持つ意味を深く理解していこうと考えています。歴史書や命令下達の法令、さらに貴族の日記などは、よく知られたできごとの展開がわかるという点で重要なのですが、もっと人々の日常がわかるような史料のほうに、どちらかというと関心を持っています。行政組織の末端で作られる登録台帳や会計報告のような古文書、さらには日常の呼び出し命令を伝える文書などを通して、そこからわかる役人と民衆の接点がおもしろくて、古代の人々の生きた世界をできるだけ知りたいと思いながら、研究を進めています。 人々の日常を物語る史料として、出土文字資料(木簡・漆紙文書・墨書土器)の研究にも力を入れてきました。出土文字資料のおもしろいところは、2007年に刊行した『地下から出土した文字』にも書きましたが、歴史書や律令といった伝えられた書物ではわからない、人々の実態がなまなましく見えてくる点です。1点1点の史料は小さく断片的ですが、そうしたものを丹念に積み上げていって見えてくるのが、当時の大きなできごとの背景となっている社会の仕組みであったり、文化や人々の信仰の広がりであったりするのです。 |
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■主要業績
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■私のゼミ(学部)で学ぼうとする皆さんへ私のゼミ(大学の科目名としては「日本史演習」という名がついています)では、参加者全員で日本古代の史料を読みながら、古代の世界でどのようなことが起こっていたのかを考えていきます。現在は、『類聚三代格』という奈良時代から平安時代前期にかけての政府からの命令書が集成された法典を、時代順に読み進めています。さまざまな分野の話題が登場することと、近い時代の命令書を続けて読んでいくことで、一つの時代にどのようなことが並行して起きているのかを感じることができるでしょう。 日本史(古代に限らず)の中で自分の研究したいテーマに沿って学ぶ場合、それぞれのテーマを明らかにするために調べる対象となるのは漢文で書かれた史料です。最初は、いったいこれをどうやって読めばいいのだろうと思うはず。その読み方、解釈のしかたといったことを、2年生・3年生の間に、ゼミの中で徹底的に学んでもらうのが目的です。そうして身につけた技量を存分に活用して、4年生になると自分の好きなテーマに沿って研究を進めていくのです。 技量を身につけるためには、毎回自力を鍛えなければなりません。各回で読む史料は、全員予習必須、授業で誰が指名されてもよいように下調べをしておいて下さい。授業の復習を兼ねて、2年生が分担して各回の授業で読んだ史料の内容をまとめるレポートを作成してもらいます。2年生から1年間かけてゼミの雰囲気に慣れた3年生には、各回で読む史料の内容と関連するテーマを調査して、口頭報告をしてもらいます。 最終的に卒業論文で取り組みたいと考えているテーマは、人それぞれでしょう。自分の興味を持っているテーマに絞って、最初からそれだけに取り組みたいと考える人もいるかもしれません。しかし、古代史の場合、残されている史料は決して多くはなく、対象となる史料を分析していく上では、着想の豊かさや関係するさまざまな問題への理解が、かなり必要となります。例えば、ある文化現象だけに興味があってそれだけをやりたいと思っていても、その文化現象を理解するためには、その起こっている時代がどういう状況の下にあって、どのような問題と結びついて起こっているのかということを抜きにしては、その文化現象のほんとうの姿はつかめないでしょう。そこで、ゼミでは、古代社会についてできるだけ広く知り、その中でのテーマを追究するという方向性をとっています。 ふだんの授業以外にも、夏休みと春休みに合宿を行っています。ふだんは法令集を読んでいますので、夏合宿では歴史書、春合宿では貴族の日記など、別なジャンルの史料を読んだり、史跡見学を行ったりしています。夏合宿では、2年生は史料を読んでその内容に関する口頭報告、3年生は自分の研究テーマをさぐるために、自由にテーマを設定して口頭報告を行っています。 毎年の合宿は、東京から離れて遠方へ行きますが、それぞれの年ごとに別々の場所で行っています。日本史を学ぶ上では、広く日本全体を見る視野を身につけて欲しいと考えますので、毎年、合宿の中で各地の史跡を見学し、それぞれの地域での古代の社会を考える機会を設けているのです。ちなみに、過去の合宿場所と主な史跡見学地は以下の通りです。
2003年夏 秋田県秋田市 : 秋田城跡 水落遺跡、飛鳥資料館、大官大寺跡、藤原宮跡 賀茂真淵記念館、伊場遺跡、島田宿大井川川越遺跡 徳丹城跡、柳之御所跡、毛越寺、中尊寺 恭仁宮跡 しもつけ風土記の丘資料館、下野国分寺・国分尼寺跡 群馬県立歴史博物館、伊勢塚古墳、上野三碑、 かみつけの里博物館 竹ノ内街道、当麻寺、近つ飛鳥博物館 昼飯大塚古墳、美濃国分寺跡、美濃国府跡、 不破関跡、南宮大社、養老の滝、甚目寺 |
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■私のゼミ(大学院)で学ぼうとする皆さんへ大学院のゼミ(これも「日本史演習」という科目名がついています)では、日本古代の史料読解について、深く掘り下げて考察することを身につけて欲しいと考えています。すでに卒業論文を書いた経験を持っているわけですから、その経験を踏まえて、さらに研究を進めるために必要な方法や知見を、多くのことに接する中から身につけていって欲しいと思います。 現在は、『日本三代実録』を分担して輪読しています。『日本書紀』や『続日本紀』と違って、六国史もこの時代になればかなり難解な長文の記事も出てきます。私も含めて、参加者全員で首をひねりながら、ああでもないこうでもないと議論を重ねてゆく中で、ようやく解釈が定まっていくことばかりです。研究する自分をお互いに磨く場として、おおいに議論しながら、互いの持っている知見をぶつけていくことができることを願っています。 夏合宿・春合宿は、学部学生とともに行っていますが、学部生との交流の場というだけでなく、学部生の発表を端緒に大学院生どうしで議論していることもあったり、おおいに知見を広げる機会として活かされているように思います。また合宿中の史跡見学を通して、博物館や発掘現場の研究者と交流を持つ機会となることを考えています。 |
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Key words: Nara-period, Heian-period, Wooden tablets, Paper documents, Local governments |