統計物理学懇談会(第 10 回)の記録

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公開:2023年1月13日、最終更新:2023年3月30日

研究会は無事に終了しました。参加してくださったみなさん、講演してくださったみなさんに感謝いたします。

一部の講演のスライドを見ることができます。

統計物理学とその周辺の分野について、様々な話を聴き自由に議論することを主眼にした研究会を開きます。 ご興味のある方は、ぜひ積極的にご参加ください。

この研究会は 2013 年から始めて今回が 10 回目です。 これまでの研究会には幸いにして多くの人に参加していただき充実した素晴らしい会になりました。 過去の記録はトップページからご覧ください。

肩の凝らない、しかし、長い目で見て意義のある会にしていきたいと考えています。 どうかよろしくお願いいたします。

世話人:齊藤 圭司(慶応大学理工学部)、田崎 晴明(学習院大学理学部)

日程

2023 年 3 月 27 日(月)、28 日(火)
(27 日は午後のみ、28 日は午前 + 午後)

開催方法

オンライン(zoom)

参加登録は締め切りました。
登録されたみなさんにはメールで zoom のリンク情報を送信しました。メールがスパムに分類されている可能性があるのでスパムフォルダーもご確認ください。

懇親会

28 日の夜には zoom での懇親会も予定しています。単に複数のブレイクアウトルームの間を行き来して議論(あるいは雑談)をする会です。

プログラム

講演は原則として日本語です。時間配分はだいたい講演 40 分 + 議論 20 分。

3月 27 日(月)

 13:00-13:05
   世話人挨拶
 13:05-14:05
  花井 亮 (京大基研)
   非相反相転移とフラストレーション物理スライド) / Show abstract
熱平衡状態は、自由エネルギーを最小化する状態として与えられる。この事実は、作用・反作用の法則に代表されるように、粒子間相互作用が相反的であることを意味する。しかし、非平衡系ではそのような制約に縛られることはなく、この法則が破られることが許される。実際、ニューラルネットワークや生態系などの多くの系における相互作用は非相反的である。さらに、光学コロイド系等の人工的な系でも、非相反相互作用を作り出し制御することが可能となりつつある。本発表では、このような非相反相互作用により誘起される非平衡多体現象について述べる。
まず前半部分では、非相反相互作用によりもたらされる、新しいクラスの相転移現象が現れることを示す。ランダウ理論を運動方程式ベースに書き直し非平衡系にも適用可能な形に拡張することにより、静的な相から時間に依存する相へと相転移する点が現れることを一般に示す。興味深いことに、その臨界点は「南部ゴールドストーンモードと他のモードとの合体」という、エネルギー最小化問題では現れることが不可能な特異な点で特徴づけられる。
後半部分では、非相反相互作用とは一見すると全く別の概念である幾何学的フラストレーション物理と、実際には直接的なアナロジーがあることを指摘する。その帰結として、幾何学的フラストレーションにより誘起される現象の代表例である「無秩序による秩序」やスピンガラスに類似の現象が非相反相互作用によって現れることを報告する。

 14:05-15:05
  大山倫弘 (豊田中研)
   破壊現象が示す非平衡臨界性:ゆらぎと応答のスケール分離スライド) / Show abstract
急冷等の操作によりランダムな構造のまま剛性を発現するようになった物質の状態をガラスと呼ぶ.材料としてのガラスは数千年の長きに渡って人類の生活を支えてきたほか,状態としての広義のガラスは自然界・工業現場から身の回りの日用品等至るところで広く観察される普遍的な非平衡“相”の一つである.しかし,ガラスの複雑な物性を記述する理論の構築は完成からは程遠く,物性物理学分野における大きな未解明問題の一つとして例示されることが多い.
一般に物性は外場に対する応答として定量化されるが,ガラスの場合はせん断外場を印加した際の応答が用いられることが多い.近年はとりわけ,理想的な極限として熱ゆらぎの存在しないゼロ温度の環境を扱い,ガラスがせん断の効果のみで示す破壊現象を通じてガラスの物性を理解しようとする試みが盛んになされている.本講演ではそうしたせん断下のゼロ温度ガラスで観察される破壊現象が示す非平衡臨界性,降伏転移を紹介する.特にこの臨界現象は平衡臨界現象とは異なり,ゆらぎと応答それぞれを支配する臨界相関長のスケール分離が観察され得ることを説明する.

 (休憩 25 分)

 15:30-16:30
  西口大貴 (東大物理)
   アクティブ乱流の気持ち:如何にして秩序化し、如何にして乱れるか?スライド) / Show abstract
アクティブ乱流とは、バクテリア濃厚懸濁液や細胞骨格再構成系、上皮細胞集団などミクロな低レイノルズ数の系に見られる乱れた集団運動のことである。これらはいずれも低レイノルズ数であるにもかかわらず、アクティビティ由来の非線形性のために、慣性乱流に似たような時空カオス的な変動を示す。これらのアクティブ乱流に共通する性質として、円形領域などに閉じ込めると安定した秩序だった渦へと自己組織化するということが挙げられる。では、この秩序立った渦は、閉じ込めなどの条件を変えるとどのように時空カオス的な乱流へと至るのだろうか?層流から乱流への遷移のシナリオは、古くから流体力学や統計物理学において興味を持たれてきたが、では、アクティブ乱流においてはどのようなシナリオが描けるのだろうか? 本講演では、バクテリア濃厚懸濁液で発現する極性を持ったアクティブ乱流状態を扱う。まず、バクテリア懸濁液が柱格子中に流れ込んだ場合の反強磁性渦秩序形成を題材として、アクティブ乱流を記述する流体方程式とその境界条件の理解を解説し、バクテリアが渦格子を作る気持ちを数理的に理解する。この理解に基づいて、最近の我々の数値的・実験的研究について紹介する。円形閉じ込め中の渦秩序が、閉じ込め半径を大きくしていくにしたがってどのように乱流へと遷移していくのかを数値的に詳細に調べた。その結果、ヒステリシスを伴う転移や、複数の振動状態とカオス状態との行き来を経て最終的に乱流へ至るという、従来の乱流化シナリオには見られない振る舞いが得られた。これらに関連して最近おこなっている実験についても最後に紹介する。

 16:30-17:30
  藤田智弘 (早大高等研)
   宇宙の複屈折率スライド

3月 28 日(火)

 9:45-10:45
  笠真生 (プリンストン大物理)
   Sachdev-Ye-Kitaev type models with dissipationsスライド
 10:45-11:45
  藤本和也 (東工大物理)
   1 次元量子系における揺らぎの成長と伝播

 (昼食など 1 時間 15 分)

 13:00-14:00
  古谷峻介 (東大総合文化)
   量子臨界相の対称性による保護スライド
 14:00-15:00
  ヴーバンタン (慶應大物理)
   最適輸送:ゆらぎ熱力学から量子多体系までスライド

 (休憩 30 分)

 15:30-16:30
  Lennart Dabelow (理研)
   Stalled response near thermal equilibrium in periodically driven systems / Show abstract
We consider isolated many-body quantum systems which start out far from equilibrium and then thermalize, or find themselves near thermal equilibrium from the outset. How does the observable behavior change in response to time-periodic perturbations of moderate strength, in the sense that they do not heat up the system too quickly? We unveil the quite astonishing phenomenon of stalled response, meaning that the driving effects become extremely weak whenever the unperturbed system is close to thermal equilibrium. Numerical results are complemented by a quantitatively accurate analytical description and by simple qualitative arguments.

 16:30-17:30
  中川尚子 (茨城大物理)
   混ぜる自由エネルギーと分ける自由エネルギー

主な更新記録


田崎晴明
学習院大学理学部物理学教室
田崎晴明ホームページ

hal.tasaki@gakushuin.ac.jp