【講演テーマ】マスメディア効果論の回帰点
明治大学名誉教授の竹下俊郎氏は,マスコミュニケーション研究を専門とし,特に「議題設定理論」の第一人者である。本講演では,マスメディア効果論の歴史的な変遷と,ソーシャルメディアが主流になりつつある現代のメディア環境における議題設定理論の妥当性などについて,多様な先行研究や実証的知見に基づきご講演いただいた。
本研究会を主催とし,政治コミュニケーション研究会と連携することで,学外にも広く参加を呼びかけて開催した。本学の学部生(FTコースの所属学生を含む)をはじめ,約50名が参加し,活発な質疑応答および意見交換が行われた。講演の概要は,以下のとおりである。
20世紀におけるマスメディアの興亡には、まさに目を見張るものがある。大衆新聞、映画、ラジオ、そしてテレビの発達と普及は、政治宣伝や大衆文化を牽引するメディアの威力を社会に強く印象づけた。マスメディアそのものの威信や人気も高まり、大学生の就職希望企業ランキングの上位に新聞社や放送局が名を連ねた時期もある。こうした圧倒的な存在感は、マスメディア研究への需要も生み出し、マスコミュニケーションを扱う大学・研究所・学会・カリキュラム・テキストなどが急速に整備されていった。
1970年代後半、私はマスコミュニケーション研究を志して大学院に進んだ。当時ご指導くださった先生方は、戦後に社会学の大学院で学んだ最初の世代であり、欧米(とくに米国)のマスコミュニケーション研究の先端的成果を日本に紹介するとともに、それを日本の現実にどう適用し、日本のデータでいかに検証できるかを精力的に追究されていた。その背中を見て育った私たちの世代は、欧米研究の実証や追試にとどまらず、理論研究の面でも対等に貢献できるはずだと少なからぬ者が考えていた(と思う)。私個人としては、これまでの歩みを振り返ると忸怩たる思いもあるが。
ところで、驚くべきは「興」だけではない。「亡」もまた然りである。21世紀に入り、多メディア化・多チャンネル化の趨勢の中で、マスメディア(伝統メディア)は経営面でも利用面でも急速に存在感を失いつつある。それと並行して、マスコミュニケーション研究と呼ばれる学術分野の存続も風前の灯となり、学部・学科名や学会名として掲げられることも少なくなった。自らをマスコミュニケーション研究者と規定してきた私にとっては寂しいかぎりだが、それはさておく。
さて、これまでマスメディアと世論の文脈では、1940年代以降、メディア効果に関するさまざまな理論モデルが提起されてきた。これらのモデルは、新しいメディア環境下ではもはや役割を終えたのだろうか。それとも、なんらかの修正を施すことで、なお使用価値を持ちうるのだろうか。代表的なモデルの理論的含意を順に取り上げながら、この問題について考えてみたい。私が見解を述べるだけでなく、若い研究者のご意見もうかがえれば幸いである。