今回の講師、玉手慎太郎氏は、現代社会思想や応用倫理学の立場から、公衆衛生の具体的問題を分析する新進気鋭の研究者である。研究会では近著「公衆衛生・ヘルスプロモーション・ナッジ:健康のユートピアへの道」(『現代思想』47巻12号、2019年)等で展開された議論を敷衍する形で講演が行われた。
なぜ公衆衛生に倫理が必要か、公衆衛生を目的としてどこまで私人の生活に介入できるか、社会階層による健康格差と社会正義、個人の自律の概念の限界、最後はいわゆるナッジ(行動科学的知見にもとづく誘導)とその民主的ガバナンス等の問題まで論じられた。盛りだくさんの内容であったにもかかわらず、よく整理された説明は明快でわかりやすく、初学者にも裨益するところ大であった。
質疑応答の中では、功利主義と公共政策の理論的問題はもとより、今回の分析視角を転用して、AI時代(自動運転技術が目の前に来ている)における自由と責任の問題にまで討論がおよんだ。