学習院大学 法学部 | 法学科|政治学科

学部長メッセージMessage from the Dean

法学部長 飯田 芳弘

つなぐことの創造性をめぐって

法学部長
飯田 芳弘Iida Yoshihiro

 今や海外に留学したことのある大学生は珍しくない。だから、たとえば就職面接の際に「留学経験があります」と言っても、面接官の関心をそれほど強くひくことは期待できない。しかし、留学先が(あくまで一例として)エストニアであったら、少なくともなぜエストニアに留学をしたのか、その学生に関心をもってくれる可能性は上がるだろう。留学経験のある大学生はいる。旅行などでエストニアに行ったことのある人もいる。しかしエストニアで学んだ大学生となるとその数は非常に少なくなる──「個性とは組み合わせである」という話をこんな例を示されて聞いた時、それが私に強い印象を残したのは、つとに私が、「異なるものをつなぐこと」が新しいものを生むということに関心を抱いてきたからでしょう。
 かつてノーベル文学賞に最も近いと言われた作家にとって、一見したところ無関係に見える AとBとの間につながりを見出すことこそ、小説創作の始まりでした。パッチワークを得意とする新進気鋭のデザイナーは、形の異なる端切れをつなぐ作業は異なる世界をつなぐことであると言い、衝突や摩擦があってもそれを乗り越えてつなぎ合わせた布に境目のない世界を見出しています。ヨーロッパには、古くから「結合術」という知の大きな潮流があり......と話は次々につながってゆきます。
 学習院大学法学部、そしてそこで研究し学ぶ法学科と政治学科の多彩で優れた教授陣と多様で熱心な学生をみると、ここが「異なるものをつなぐこと」のための多くの素材(パーツ)を得るのに絶好の環境ではないか、との思いを強くします。SNSなしの生活など考えられないこの時代、SNSを通じていろいろな人とつながりたいという声をよく聞きますが、そこでのつながりは同じような考えの人とのつながりになりやすく、SNSを通じて得た情報には自分に都合のよい情報が多くなりがちともいわれています。そういう時代だからこそ、なおさら「異なるものをつなぐこと」が大切になってくるのではないでしょうか。
 ことによると、これこそ、さまざまなものが壊れ、その断片や残骸が散在する時代をしぶとく生き抜くために必要な姿勢なのかもしれません。