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学ぶ法学科講義ピックアップPick Up Lectures

講義ピックアップ:横山久芳
講義ピックアップ:横山久芳

知的財産法演習知的財産法の模擬法廷

横山久芳教授

Yokoyama Hisayoshi

実際の事件を扱う模擬裁判

 知的財産法とは著作権法、商標法、特許法などの総称で、本ゼミは実際の裁判例を素材とした模擬裁判の形式をとっています。過去に扱った具体的な事例を挙げますと、恋愛シミュレーションゲームで主人公の高い能力値を記録したメモリーカードを販売し、ゲーム展開に変更を生じる行為について、著作者人格権侵害が争われた『ときめきメモリアル事件』、幼児用椅子が著作物として保護されるか否かが争われた『TRIPP TRAPP事件』、電話ボックスを模した工作物内に水を満たし、金魚を泳がせたオブジェの著作権侵害が争われた『金魚電話ボックス事件』などを課題としてきました。
 このように、本ゼミではすでに判決が出て結審している実際の事件を扱いますが、どの事件を課題にするかは、一審と控訴審で判決が違う事件など、判決がどちらに転んでもおかしくない事案を選ぶようにしています。例えば、『金魚電話ボックス事件』などは、原告が敗訴した一審の判決が、控訴審では覆っている事件です。模擬裁判とはいえ、立論の仕方や戦法によって、実際の判決とは違う判決が出ることも多々あるのが、このゼミの面白さのひとつではないでしょうか。

実際の事件を扱う模擬裁判

実際の事件を扱う模擬裁判

 授業の進め方としては、最初の2回の授業で著作権法に関する基礎知識の確認を行い、3回目の授業から模擬裁判を隔週で実施していきます。ゼミ生は毎年約 20名。原告班・被告班・裁判所班・オーディエンス班の4班に分け、ある模擬裁判で原告班を担当したら、次の模擬裁判は被告班、そのまた次は裁判所班と、役割がローテーションしていきます。
 模擬裁判を実施する前の週は、模擬裁判に関する準備手続を実施します。この準備手続では、裁判所班を交えて原告班・被告班が事実関係の確認や争点整理を行うのですが、これは模擬裁判当日に事実関係をめぐって当事者間で意見の食い違いが生じないように、事実関係のすり合わせを行っておく必要があるためです。
 模擬裁判当日は、裁判所班の指揮に基づき、原告・被告班が弁論を担当します。原告・被告班にはあらかじめオーディエンスへのプレゼンテーション用にレジュメを用意してもらいます。
 模擬裁判の簡単な流れとしては、原告・被告班がそれぞれ10分ずつの立論の後、双方が 10 分ずつ質疑をし合います。さらに、裁判所班からそれぞれの班に質疑をして、原告・被告班が10 分ずつの最終立論を行います。弁論が円滑に行われるように、裁判所班が時間を管理し、オーディエンス班は最終立論を聞いたうえで、どちらの弁論が優れていたかを講評します。
 模擬裁判が終わると、裁判所班は翌週までに判決文を作成します。その判決を聞いたうえで、原告・被告班はコメントや反省を述べることになっています。そして、次の新たな模擬裁判での準備手続に入る……というように、模擬裁判の翌週は判決と準備手続のサイクルでゼミが進行していきます。

実際の事件を扱う模擬裁判
実際の事件を扱う模擬裁判

成長を実感できる貴重な経験

 毎週、オーディエンス班以外の班員同士はかなり密にコミュニケーションを取り合い、戦法を考えたりレジュメや判決文を作成したりせねばならないため、ある意味ハードなゼミとも言えます。知的財産法の知識もなく、ゼミ形式の授業に16法学科法学科慣れていない3年生は、最初は難しくキツいと思うかもしれません。ただ、なかなか発言できなかった3年生がだんだんと発言できるようになり、4年生になると1年間の知識の蓄積もあり、ディベートにも慣れてくるため、多くのゼミ生の成長が垣間見られます。
 本ゼミは知的財産法の基礎的な知識を習得し、ゼミの課題を通じて、情報の調査・収集能力、ディベート能力、文章作成能力など、社会人として必要となる基本的スキルを習得することが大きな目標になります。模擬裁判や判決文の作成をするにあたって、プレゼンテーション能力、ディスカッション能力、論理的な思考力や文章力を身につけられることが大きな醍醐味と言えます。
 現在の私たちは、音楽や映画、出版物、アートなど、著作権が存在するさまざまな分野に接して生きています。インターネットでSNSを使って発信する機会も多い昨今、こうした知的財産がどのように法律に関連しているかを知ることは、多くの人にとってより身近な課題になっていると思います。

成長を実感できる貴重な経験

教員紹介

受講生の声

模擬裁判を通じて身についたプレゼン力と協調性が財産に

 私はインドネシアとベトナムに住んでいた経験がある帰国子女です。東南アジアの国のショッピングモールなどに行くと、映画のDVDや音楽CDなどいわゆる違法の“海賊版”ばかりが並んでいるのを見て、幼少期から「映画や音楽を作っている人たちにきちんとお金は還元されているのだろうか」と疑問に思っていました。高校時代、自主映画を製作する際に日本国際映画著作権協会(J I M CA)に触れる機会もあったため、大学では改めて詳しく著作権法を勉強したくなりました。学習院には知的財産に関する模擬裁判のゼミがあることは知っていたので、このゼミの存在が大学を選ぶ際にも大きな要素になりました。
 模擬裁判という形式で自分の意見を人前で述べたり、グループワークができたりすることも私にとっては魅力でした。学びたい知識を得られるうえ、自分の能力を底上げでき、協調性も身につけられますから。
 このゼミの大変な点は、準備に時間がかかること。模擬裁判の原告・被告班の担当のときにはレジュメを作りますが、授業時間外に集まって、1週間という短い期間で完成させねばなりません。しかも、自分たちが有利になるような判例を探し当てるだけでも大変です。膨大な資料を読み込む際には、流し読みをしているとすぐに大事なポイントを見失ってしまうため、神経を研ぎ澄ませていないといけません。また、自分たちが有利になるように主張を構成していくなかで、班員同士の意見が食い違うこともよくあります。それをグループとしてひとつの主張にまとめるのも一苦労です。
 相手に勝てるように反論も想定しながら主張を組み立てるには、多角的な視野が必要です。人と密接に関わるゼミだからこそ、自然と訓練されて、自分の視野も広がっていくことが、このゼミで得た大きな財産となっています。