学習院大学 法学部 | 法学科|政治学科

学ぶ法学科講義ピックアップPick Up Lectures

講義ピックアップ:長戸貴之
講義ピックアップ:長戸貴之

租税法演習

長戸貴之教授

Nagato Takayuki

租税法で身につく「生きた学問」

 「租税法演習」は3~4年生向けのゼミナール方式の演習です。年度によりますが、今年度は第一学期に租税と平等に関する理論的な書籍を通読し、第二学期には国境を越えて移動する人を題材に、具体的な税や社会保障の仕組みについて調査研究を行っています。
 そもそも、租税法とは租税に関する法の全体の総称であり、守備範囲は多岐にわたるため、教科書で学べる範囲を優に超えます。また、租税法は民法や憲法などと違い、必修科目ではありません。ですから、参加する学生のほとんどが前提となる知識を持っていない、というのもこの演習の特徴だと思います。
 講義の内容を具体的にお話ししますと、例えば今年度は第一学期に哲学や経済学の書籍を読んで、社会における経済格差の問題を学びました。私が一方的に講義するのではなく、課題文献を全員で分担し、1章ずつレジュメを作って発表し、全体で議論してもらうという授業形式になっています。
 それを経て、第二学期は日本に移住する外国人、または日本から出て外国で暮らす人に関して、税のみならず、年金や保険などはどうなっているのか、という具体的なテーマをもとに発表をしてもらっています。
 法学科全体を見渡しても、外国人に関する話は憲法の授業で1 回取り扱うかどうかだと思いますし、社会保障法を履修する学生は多くないので、この授業で初めて触れる内容ばかりです。ただ、現実問題として日本に来る外国人も外国で働く日本人も増えています。各種のニュースメディアで取り上げられる現実に即した問題を扱うことで、生きた学問を学ぶことができると思います。

実際の事件を扱う模擬裁判

議論の「種」を意識した発表

 プレゼンテーションは重要だと言われることが多いですが、一見高い問題意識を持っているようでスライドもカラフルで枚数も多いけれど、元となる知識がしっかりインプットされておらず、実際には内容があまりない、といったものは避けてほしいと思っています。ですからこのゼミでは地味な発表でいいので、まずはしっかり地に足をつけて制度を理解することを重視しています。「どのような前提に立つことで、こういう結論や主張になるのか」を踏まえたうえで、「どこで意見が分かれるのか」を意識することが大切です。文献を正確に読み取ったうえで、そこから何を議論するかを意識する、自ら何が問題なのかをピックアップする能力を伸ばしてほしいと思っています。
 加えて、学生たちには単に課題文献を要約するだけではなく、議論の「種」を提供してもらうようお願いしています。自分の発表だけではなく、毎回の質疑応答や議論を通じて、そうした議論の「種」から出た芽を育てていくことが、客観的な制度の理解につながるからです。

実際の事件を扱う模擬裁判
実際の事件を扱う模擬裁判

社会に出ても役立つリサーチ力

 租税法演習を通して学生に得てほしいものは非常にシンプル。初めて遭遇した問題に自分なりの解決法を導き出す能力を高めてほしい、ということです。そのために必要なのが、しっかりとリサーチをする能力です。現代ではウェブブラウザや生成AIを使えばすぐに情報が得られます。ですが、そうしたリサーチ法だけでは信頼できる文献にたどり着く能力は身に着きません。Wikipediaなどでも、英語であれば一次文献のリンクが貼られていますが、日本ではオンラインで手に入る信頼できる文献が非常に少ないのが現状です。
 このゼミでは最初にリサーチのための時間を作ります。みんなで図書館に行き、「この棚に租税法に関する本があり、どの雑誌が信頼出来て、雑誌ごとにこんな特徴がある」なども説明します。データベースの使い方についても法学特有のリサーチ方法があるので、それもきっちりと指導します。
 ウェブブラウザや生成AIを適切に使えるようになるためにも、まずは自力で一次文献を探し当て、必要な正しい情報を取得し、自分なりの考えをまとめてプレゼンをする。そうした地道な作業を積み重ねる経験は、社会に出てからも必ず役に立つはずです。
 最後に、租税法演習を受講するメリットは何かといえば、最初にも触れたように、法学の他の科目に比べて裾野が広く方法論も多様であるため各人の関心に応じて色々な楽しみ方ができる点です。例えば、憲法や民法だとどうしても判例をメインに解釈論を勉強することが多くなると思いますが、租税法では経済学や哲学、歴史学からのアプローチで立法論も展開できます。あえてデメリットを挙げるとしたら、ただ一点、司法試験にはあまり役に立たないということくらいでしょうか。

成長を実感できる貴重な経験

教員紹介

受講生の声

きっと新しい世界が見えてくる

 租税法演習のゼミには、3年生6名、4年生8名の計14名が所属していて、私はゼミ長を務めています。1つのテーマについて1~2人で報告を行い、みんなでディスカッションしていきます。基本的に、長戸先生から与えられるのは文献だけですので、その材料をどのように加工していくか、どのような問いを設定し、どのような議論を展開していくかは発表者に任せられており、比較的自由度は高いと思います。
 今年は国際課税を中心にテーマが設定され、自国より税金が安い、または高い国で暮らす場合、どんな制度があってどんな手続きをする必要があるのか。そして、国際社会全体でどのように対応していくべきなのかなどを研究しています。
 税金はあらゆる日常生活に関わります。消費税はもちろんですが、それ以外にも所得を得る時や、逆に報酬を支払う時など、取引を行う際にどのような税金が課税されるのか。そして、その税金が果たして本当に公平で適正に課されているのかを学ぶ授業になっています。
 私は中等科から学習院なのですが、高校1年時の情報学習の授業でサイバーセキュリティに興味を持ち、企業と共同研究をしていました。大学1年時にも、企業とコラボしたセキュリティに関する活動で報酬をもらったのですが、その際に親の扶養の範囲を超えない雑所得は48万円までという制限があることを知りまして。それをきっかけに税金に興味を持ち、この演習を受講することにしました。
 ゼミ生の進路は、銀行や弁護士事務所などの民間企業から公務員まで様々です。私は社会インフラを支えるIT企業に内定していますが、社会に出た後も、この演習での学びを通して身につけた、「ビジネスを税金という視点から見る」という発想を生かしていければいいなと思います。