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学ぶ政治学科講義ピックアップPick Up Lectures

講義ピックアップ:玉手慎太郎
講義ピックアップ:玉手慎太郎

公共哲学演習

玉手慎太郎教授

Tamate Shintaro

共に生きる他者との関わり

 公共哲学演習は、ひと言でいうなら現代社会における「公共性」について学ぶゼミです。専門的な定義は非常に難しい「公共性」という言葉ですが、多様な人々がいっしょに暮らすための仕組みや活動のことと捉えてください。それは制度化された政治プロセスだけでなく、街頭での市民運動やソーシャルメディア上のやりとりの中にも見出すことができます。現代社会で起こる多様な営みを、共に生きるという視点から包括的に取り扱う有益な概念なのです。
 このゼミでは、「公共性」について論じられた書籍をゼミ生みんなで協力して読み、疑問点を挙げたり話し合ったりして理解を深めていく、いわゆる輪読形式を取っています。とりわけ私は、より深い理解に至るだけではなく、より深い疑問に至ることを大切にしています。何が問題になっていて、人々はどこですれ違ってしまうのか。それを整理して明確に言語化することが、思い込みや粗雑な理解に基づく分断を乗り越える手がかりになると考えているからです。

共に生きる他者との関わり

多様な人々の抱える生きづらさ

 輪読に際しての課題図書は、前期は私が選び、後期は私が候補として挙げた本のなかから学生たちが投票で決めています。これまでのゼミでは、メディアが人々の感情をどのように報道し、それがどのように人々の感情に影響を及ぼしているのか。ポスト・トゥルースとはどのような状況で、どこに問題点があるのか。人々が差別と呼ぶものはどのように定義され、いかなる意味で不当なものなのかといったことを検討する著作を扱ってきました。現代社会における様々な人々の生きづらさと、そのような生きづらさをいっそう悪化させる分断状況について、クリアな見通しが得られ、ゼミ生にとって充実した読書経験になったと思います。
 最近では読書や勉強にも効率性を求められる傾向があると感じます。短時間で本を読む方法や、読書より簡単に知識が身につく動画などが喜ばれる時代です。しかし、結果だけを求めて近道をしたり、他人の言葉でわかったつもりになったりしたとしても、それは本当の意味での習得にはなりません。このゼミでは、時間深い理解よりも、深い疑問の中に学ぶことの意味を見つけてください。をかけて丁寧に読み進めることを大切にしています。自分の言葉でしっかり説明できること、そのための努力を通じて自分自身を見つめ直すことには、落ち着いて取り組むゆっくりとした時間が必要です。少し大げさな言い方にはなりますが、そうした厚みのある学びの時間は、大学でしか得られない経験であり、大学が提供できる重要な価値のひとつだと考えています。

多様な人々の抱える生きづらさ

未知が無知に変わる営み

 現在、このゼミには3~4年生18名の学生が所属しており、4年生には自分の関心のあるテーマの著作について論文を書いてもらいます。レジュメを作成し中間発表をして、ゼミ合宿で論文を発表。その後、最終的な手直しをして提出してもらうという流れです。
 いくら関心のあるテーマでもどのような学術的問いに繋がるのかが見えなかったり、同じテーマを扱う著作でも良い本を選ぶのに悩んだりすることもあります。そのため、4年生とは必然的により密なコミュニケーションを取ることになりますが、ゼミに参加している学生たちの個28政治学科性も様々です。自分の関心がはっきり見えている学生もいれば、中には、なんとなく哲学的なことって楽しいよねという学生もいます。先日もまだテーマが決まらない学生と話していたのですが、「君は映画が好きだから、最近話題になっているこの映画批評の本はどう?」と勧めると、「面白いですね!この本にします」と決まったところです。
 卒業前にきちんとした内容のある論文を書きあげることももちろん大切ですが、自分なりのテーマを見つけて、その著作への疑問と理解を深め、自分の言葉でまとめるというプロセスのほうが重要だと、私は感じています。
 哲学とは未知を既知に変える単純な営みではなく、むしろ未知が無知に変わっていく営み。つまり、「わかっていたつもりでわかっていなかった」「何がわかっていなかったかがわかった」という経験から、ひとつの問題のなかに何十もの難問が隠れていることを知る経験です。そうした経験から得られる智慧こそが、複雑な現代社会を他者と共に生きていくうえで、確かな足場となるはずです。

未知が無知に変わる営み
未知が無知に変わる営み

教員紹介

受講生の声

議論を積み重ねることで自分も周囲も成長できました

 ゼミが必修科目ではない政治学科では、3年生になる前に、そもそもゼミに所属するのかしないのか、するならどのゼミを選ぶのかを決めることになります。私は学生のうちに何かのテーマについてとことん語り合う経験をしたいと思っていたうえ、もともと哲学に興味がありました。ゼミの説明会で授業の進め方や内容を玉手先生が丁寧に説明してくださったので、ゼミについてハッキリとイメージすることができました。自分の議論力も鍛えられ、ひいてはコミュニケーション能力の向上にも繋がるのではないかと思い、このゼミに所属することに決めました。
 ゼミは1班6人のグループに分かれて、課題図書を読み理解を深めます。様々な考え方を持つゼミ生同士が自分の意見を出し、議論して、ひとつの結論に落とし込まねばならないのですが、毎回円滑に進行するわけではありません。言いたいことが上手く伝えられなかったり、意見が全く出なかったり、話がループして議論が前に進まなかったりすることも多々ありました。ですが、回を重ねるごとに、ゼミ生同士がお互いの個性を理解して関係性ができたり、協力し合って発言しやすい環境を作っていったりすることで、少しずつ議論に慣れ、自分だけではなく周りの成長も感じられるところも、このゼミの醍醐味のひとつです。個人的にこの経験は就職活動でも役立ちましたし、ゼミに参加したことに非常に意義があったと感じています。
 私は4年生なのでこれから論文を書き上げねばなりませんが、大好きな食事についての哲学的考察をテーマに決めました。玉手先生にはよく論文の相談をしているのですが、難しい問題をかみ砕いて、整理整頓し直して解説してくださるので、難解だった哲学が身近な問題として捉えられるようになって来たと感じています。